「キラキラネーム」どこまで認める?戸籍法改正案中間試案について

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先日、戸籍法の改正について法制審議会が中間試案をまとめたとの報道がありました(本稿執筆時点では中間試案自体は公表されておらず、試案(案)のみ公表されています)。

この中間試案の中でもとりわけ耳目を集めたのが、いわゆる「キラキラネーム」についてどの程度認めるかという点です。

「キラキラネーム」と呼ばれるような難読氏名自体については昔から存在していましたが、氏名の読み仮名は戸籍の記載事項とされていなかったため、戸籍法との関連では問題にされることがありませんでした。

ところが、今回の戸籍法改正に伴って氏名の読み仮名を戸籍に記載することが定められたことにより、戸籍法もいよいよ「キラキラネーム」と向き合う必要が生じたのです。

そうすると、まず気になってくるのは、なぜ今更になって戸籍に読み仮名を記載することになったのかという点です。

難読氏名に限らず、そもそも読み方が複数考えられる氏名は数多くあり(「やまさき」か「やまざき」か等)、読み仮名まで特定するほうが本人の特定のためには当然有用です。

現に現行の戸籍法が戦後すぐに制定・施行されて以降、過去三度にわたって各種審議会・研究会で読み仮名の記載について検討はされているのです。

それでも現在に至るまで戸籍への読み仮名の記載が見送られ続けたのは、漢字の音訓や文字本来の意味にそぐわない読み仮名の届出がされた場合の対応や、事後的な読み仮名の修正の申請に対する対応をどうするか等、多くの実務上の問題が生じることが主たる原因であったようです。

しかしながら、現在は戸籍等の個人情報もデータ化して管理するようになり、膨大な数の戸籍を氏名の読み仮名に基づく五十音順に整理した上で効率的に管理運用したいという需要が高まっています。

また、2024年にマイナンバーカードの海外利用開始が検討されている中で、それにあわせて氏名をローマ字表記できるようにする必要があるという事情もあり、今回の改正に至ることとなったようです。

他方、従前三度も改正を先送りする原因となった実務上の諸問題については、当然現在においても対応が必要です。

上記の中間試案では、既に戸籍に記載されている者の読み仮名については、原則として本人が自ら読み仮名を申し出ることとし、一定期間内に申し出がない場合は市町村長が職権で定めた読み仮名を戸籍に記載するものとされています。

そうすると、自ら申し出のあった読み仮名についてはその読み仮名をどこまで許容するか、市町村長が職権で定める読み仮名については実際どのようにして定めるかが、それぞれ問題となります。

前者については「公序良俗に反しなければ認める」「字義との関連性があれば認める」といった複数の案が出されています。

ただ、いずれの案によるにせよ、具体的な事例にどういった判断がされるのか、全自治体で統一的な判断ができるのかという点については問題が残ります。

例えば私が「いけがみ・すかいうぉーかー」という読み仮名の申し出をした場合、善良な風俗に反するとも文字の意味に反するともいえないですが、知的財産権等の問題を含みそうで、判断が割れるように思います。

また、後者についてはまさにいわゆる「キラキラネーム」の場合に各自治体がどういった方法でどういった読み仮名を定めるべきか、まだまだ検討の余地がありそうです。

なお、単純な解決案として上記の申し出について届出義務を課し、届出のない場合や虚偽の届出をした場合に罰則をつけるという方法も考えられ、現にこのような案は法制審議会でも検討されていましたが、国民の理解を得られないという意見が強く、採用には至りませんでした。

確かに単に役所での届出をさぼっていただけで悪いことはしていないのに罰則を科されるというのは納得しづらいですし、場合によっては何千万人もの方々が罰則の対象となることも考えられ、現実的な対応とは言いづらいでしょう。

また、事後的な読み仮名の変更については、原則家庭裁判所の許可を要するものとして、「成年に達したときから1年以内」等の一定の場合に限って一度だけ家庭裁判所の許可がなくても読み仮名の変更を可能とするというのが現在の試案の立場です。

読み仮名自体を戸籍に記載して個人を特定する公的な情報とする以上、現行の氏名の変更と同じく家庭裁判所の許可を要するというのは、ある種当然の帰結ともいえそうです。

他方、読み仮名の変更を家庭裁判所の許可に任せるとなると、ここでも特殊な読み仮名をどこまで許容するかという問題も生じます。

裁判所はあくまで自治体とは異なるお役所ですので、裁判所と自治体との間で許容する読み仮名の範囲に大きく差が出て、裁判所が抜け道的な使われ方をするという事態も生じうるでしょう。

いずれにせよ、今回の中間試案はあくまで試案であり、今後意見公募手続や国会での審議を通じて、さらに詳細が詰められていくことになります。

戸籍法改正は私たちの氏名という個人情報に関わる法改正でもあり、今後も引き続き注視する必要があるといえるでしょう。

岡野法律事務所では、全国13の拠点に57名の弁護士を配し、氏名の変更等弁護士が携わる機会の少ない業務についても、弁護士間でノウハウを共有して皆様のお役に立てるよう日々研鑽を積んでおります。

氏名に関する問題でもその他の問題でも、お困りの際は是非お近くの岡野法律事務所にご相談下さい。

文責:池上天空(いけがみ・そら)

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